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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

銀と千のバレンタイン -苦いから甘さがわかる- 4

Posted by 碧井 漪 on  

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バレンタインデーの翌日、センリを送って行った帰りに、ちさとから連絡があって、会うと、「一日遅れちゃったけど、はい、本命チョコ。」と高級なブランドチョコの包みを渡された。


ちさとらしい。


「ありがとう。」


でも、何だろう。


センリから貰ったチョコの時の方が、胸が熱くなってた。


あの時、一生懸命な千里を見て、自分も高校生に戻ったみたいに感じてたのかな。


初めて作ったという、デコボコチョコ。


誰にも買えない、世界でたった一つのそれを貰えた今年の俺は、とても光栄だったんだな。


やばい、本当にこれじゃあ、元生徒に恋する先生になってしまうじゃないか。


俺が本気になったって、いずれ千里に捨てられるんだ。


同年代の男の方が良くなるに決まってる。


「銀ちゃん、それで返事は?」


「返事?」


「本命チョコの返事。」

「本命って、俺じゃなくて兄貴にだろ?」


「金ちゃんにはとっくにフラれてる。」


「兄貴にフラれたから俺って訳?」


「そう思いたいなら、それでもいいわ。」


「ふーん。」


「彼女いないなら、付き合って欲しいの。結婚を前提として。」


「さらっと言うなよ。結婚を前提とか。」


「本気よ。私は結婚を考えない男と付き合ったりしないわ。」


「へー・・・そう。ちさとってさ、処女?」


「そうよ。」


「さらっと言うなよ。恥ずかしがれよ。」


「隠してどうするの。いずれわかる事よ。」


「いずれって・・・俺とそういう事しようとか考えてる訳?」


「結婚するって事は、そういう事でしょう?何を言わせるのよ。」


「今更照れるなよ。こっちが恥ずかしくなる。」


「職業柄、躊躇ってばかりいたら進めないから。」


ちさとの職業は医者だ。心臓内科医。金矢の主治医でもある。


人の生死に毎日直面して、白黒判断を求められる、緊張の連続。


素直にすごいと思う。


嫌々教師になった俺なんかよりずっと、尊敬出来る人間だ。


年上のちさとの事は、昔から好きだった。


いいとこのお嬢さんで品があり、頭も良くて勉強も教わった。それだけじゃなく、背もスラリとして、とても美人だ。好きにならない男がいたら、会ってみたい。


でも、ちさとが気に掛けるのはいつも金矢で、学生時代、俺はちさとへの憧れを捻り潰した。


金矢が一番、俺は二番。


両親からも、ちさとからもそう思われていたのは知っている。


だから、自信が持てないんだな。


疲れる一位二位争いに入らない、ぬるい所にいるのが楽で丁度いい。


誰かの一番で居続けるなんて、きっと俺には無理な事だから。


一番・・・その時、センリの顔が脳裏に浮かんだ。


センリの一番になりたかっただなんて思・・・

俺は咄嗟に首を振って、打ち消した。


「銀ちゃん、どうしたの?」


「俺でいいならいいよ、付き合おうか。」


「えっ、ほんと?」


「うん。」


「ありがとう。嬉しい。」


ちさとが笑った。綺麗な顔だった。


「付き合うなら”銀ちゃん”って呼ぶのはやめてね。俺が呼び捨てなんだから、ちさとそうして。」


「えっと、じゃあ、銀、矢?」


「ちゃんと呼べよ。」


「銀矢。」


「もう一回。」


「銀矢。」


「うん・・・」


憧れていた女と付き合える事になったのに俺は、

嬉しいというより、もう戻れない寂しさを感じていた。


分かれ道に踏み出すのは、センリより年上の俺の方が先だ。


これでいい。


ぬるま湯から先に抜け出すのは俺だ。


センリが先に抜け出して、俺だけ一人、冷え切った水風呂に残されるより、ずっといいだろう?


付き合う、とはいえ、大きな病院に勤めるちさとは夜間勤務もあって、中々普通のデートは出来ない。


週末、病院へ行く前の夕食を慌ただしく共にして、また週明け、時間のある時にとそういう感じ。


勤務時間が比較的規則的な教師と不規則な医者、上手くやって行けるのかと不安にはならなかった。


別に、上手くやらなくたっていい。


ちさととの会話は、金矢を気に掛ける内容の物が多く、

ちさとは俺と付き合いたいのではなく、金矢の弟と付き合いたいだけなんだと解るのに時間は掛からなかった。


かと言って、別れる理由もないしな。


職場でも実家でも『結婚はいつ頃?』の質問に答えるのも飽きたし。


ちさとが俺を利用したいなら、俺もちさとを利用すればいい。







三月十四日、金曜日。ホワイトデーはバレンタインデー程の騒ぎにならない。


主に騒ぎの中心となる三年生がいなかったから。


四日前、卒業式は無事済んだが、学年末でとにかく忙しい。


職員室を出たのは21時前だった。ぐったり・・・


裏の大きな門を開け、車を一旦学校の門外に移動し、再び門を閉める。


疲れたカラダには重いんだよな、この門。


あれ?軽かった。


ガシャン。


門を閉め終えた銀矢は、下を向いていた顔を上げた。


門を閉めた手が、四本になっている。


お化けか?


いや・・・黒いキャップに青いダッフルコート。


「センリ。」


「遅かったですね。」


センリのキャップから覗く耳は赤く、つばを上げると目も、目の下の頬も赤く色付いていた。



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碧井 漪

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