銀と千のバレンタイン -苦いから甘さがわかる- 1 - sazanamiの物語
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    銀と千のバレンタイン -苦いから甘さがわかる- 1


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    「疲れた・・・」


    呟きながら、自宅マンションの駐車場に停めた車から降りた銀矢は、八階建ての三階の部屋を見上げた。


    水色の遮光カーテンの隙間から漏れる灯かりを目にして、どこかくすぐったい。


    車をロックして、エレベーターへ急いだ。


    部屋のドアの前でポケットに手を突っ込み、あ、そうだ鍵は千里に渡したんだった、とチャイムを鳴らした。


    ピンポーン。


    応答はない。


    けれど、パタパタパタ、と近付く足音が部屋の中から聞こえて来る。


    「センリ?」


    ドアノブに手を掛けて待つと、ガチャッ、千里が顔を出した。


    「先生、おかえりなさい。」


    「センリ、今、玄関の鍵、開けっ放しだった?」

    「あ・・・ごめんなさい。ついうっかり。」


    「うっかりじゃないよ!前にも言っただろ。ちゃんと鍵を」「先生、早く!」


    千里は俺の袖を引っ張り、玄関の中へ引き入れた。


    「何だ?」


    「玄関で騒いじゃ駄目です。他の人にバレたら・・・」


    「バレたら何だ?」


    センリは俺の袖を離した。


    「先生、困るでしょう?」


    俯き、唇を噛みながら、両手でエプロンを握り締めるセンリに、俺の心配なんかするなと言ってやりたくなる。


    本当は気付いてるんだ。


    千里が男みたいな恰好をするのは、男を寄せ付けない為だけじゃなく、俺と逢っていても怪しまれないようにと考えての事だと。


    やせっぽちな千里は、髪を短く切って、本当に男みたいで。


    でも思い遣りがあって、話し言葉はちゃんと女の子で。


    料理も上手くて、こうして家に来てくれる時は掃除もしてくれる。


    朝、出て来た時より格段に綺麗になっている。


    千里は顔だって可愛い方で、アッチの方は文句なくて、同年代の男なんて、簡単に靡かせられるだろう。


    俺には恩を感じている、ただそれだけ。


    「コート、掛けますね。」


    千里はハンガーを片手に、俺のコートを預かった。


    「もういいのに。」


    テーブルの上に並べられた一人分の夕食を見て呟いた。


    「何がですか?あ、肉じゃがの気分じゃなかったですか?一応、カレーも作っておきました。そっちにしますか?」


    「どっちもやだ。」


    「え・・・」


    どうしよう、と千里が困った顔をする。


    担任でもなくなった俺に、今更媚び売ってどうする。


    「コンビニで何か買って来ます。何が食べたいですか?」


    「センリ。」


    「はい。」


    千里はコートを着込んだ。コンビニまでひとっ走りするつもりだろう。


    俺なんかの為に、何でそこまでする。


    背を向けた千里を、俺は後ろから羽交い絞めにした。


    「センリが食べたい。」


    千里の耳を唇で食んだ。赤くて温くてやわらかい。


    「せんせ・・・ごはんは・・・」


    「風呂、掃除したの?」


    「はい。ざっとですけど・・・」


    「じゃあ、一緒に入ろう。」


    「え、でも、私、今日は帰らないと・・・」


    「泊まって行かない?明日、休みだろ?」


    「それはそうですけど、おばあちゃんに泊まるって言ってないから・・・」


    千里は中学生の時に家庭の事情で祖母に引き取られ、二人で暮らしていた。


    「俺が電話する。友達の名前、何だっけ?」


    「エミちゃんです。」


    「それは嘘だっけ?」


    「泊まりに行く程親しくないけど、お弁当は一緒に食べてます。」


    「そっか。じゃあ・・・」


    銀矢は自分の携帯電話から、千里の祖母の家に電話した。


    銀矢はエミの父親のふりをして、千里がエミの家に泊まると話し、千里に代わった。


    「うん、大丈夫。心配しないで。前にも泊まったでしょう?うん、それじゃあ。」


    電話を銀矢に返した千里は、胸に手を当てて、ふーっ、と大きく息を吐いた。


    「罪悪感?」


    「はい、少し。」


    嘘を吐かせてごめんな。でも、今夜はもう少し一緒に居たいと思った。


    千里はコートを脱ぎ、

    「お風呂、お湯溜めて来ます。」と風呂場へ向かった。


    「ああ、ありがとう。」銀矢はスーツを脱いで自分の部屋のハンガーに掛けた。


    千里の気持ちが恋じゃないと知っているから、もう少し、俺は夢を見て居たくなった。


    いつ終わるか知れない関係。


    カラダだけの関係。


    千里は俺を先生と呼ぶが、

    卒業したんだから、もう先生じゃないよ。関係なくなる。


    千里が俺に逢いに来なくなる日はいつだろう。


    卒業した生徒達が逢いに来るのは、長くて半年後迄だった。


    一年したら、誰も来なくなる。


    千里は違った。唯一、俺に逢いに来る。


    それは何か見返りが欲しいから。


    千里を抱く男なら、俺じゃなくてもいいんだろう。


    俺と関係を結んだのは恩と、それから口を開けない仕事だから。


    元教え子と関係を持ったなんて世間に知れたら、人生半分終わるだろう。


    千里にとって、俺は都合のいい相手。


    後腐れなく関係を持てるセフレって所か。


    銀矢は、ワイシャツとパンツに靴下姿で風呂場の前に立った。


    ガチャ。風呂場から出て来た千里が、

    「もう少しでお湯が溜まります。」と捲った袖を直しながら微笑んだ。


    銀矢は黙って千里のシャツのボタンに手を掛けた。








    続きは以前から書きたくて、五周年記事その他に沢山のコメントを頂いて調子に乗り、久し振りに一気に書き上げる事が出来ました。

    2017年に書いた【続編】 -苦いから甘さがわかる- 全6話 (舞台は2014年です)

    ブログでは危険な部分もノーカットでお届けします。(comicoチャレンジノベルにはRカットして掲載予定)

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    ジャンル : 小説・文学

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    碧井 漪

    Author:碧井 漪
    絵師 西洋蔦(ib)さんと共に更新中


    作品の著作権は
    sazanami&ibにあります。
    無断転載は禁止しています。



    ☆総合目次☆

    *乙女ですって 相関図*

    *近男 登場人物紹介*

    *SとS 家系図*

    *恋愛小説 官能小説 作品一覧
    +覚書 2017.2*

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    2014.10.16設置



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