馮離 A面 11 - sazanamiの物語
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    馮離 A面 11

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    賢さんは二つになった買い物袋を車椅子の手押しハンドル部分に提げず、自分の両腕に提げながら、俺の車椅子を押して歩いた。


    負担を掛けるのが嫌で、一生懸命、手で漕ぐけれど、絶食していたせいか、上手く力が入らない。


    外を出歩く事を想定してなかった上に、周囲に電動の車椅子を勧める人はいなかったから、俺の車椅子は手動だった。


    軽くて小回りの利く型で、家の中で不便を感じた事はないが、外へ行くとなると、スーパーの入口もスロープだったし、電動車椅子の方が都合が良さそうだと思った。


    電動の価格は手動の四倍だけど、買えない訳ではない。


    だけど賢さんは反対するだろうな。


    『腕の力が鈍(なま)る!』


    リビングには俺の腕を鍛える為と称された運動器具が賢さんの手によって設置されている。


    バーにぶら下がるタイプの物だ。鉄棒と言うのか、とにかく腕を鍛えろと、毎日懸垂(けんすい)をやらされる。俺の腕はその内、賢さんより太くなりそうだ。


    「ただいまー。」


    「・・・・・・」


    「ただいまって言えよ、朝臣。」


    「ただいま。」


    誰も居ない家の玄関に入るなり言わされて思った。


    賢さんは言いたかったのかなと。


    ここを出る時の彼の纏っていた雰囲気と、今の彼の雰囲気は明らかに違った。


    二度と戻って来ないんじゃないかとちらと思わせる目の色をして、俺の不安を募らせた彼とは別人の様。


    さっきのは何だったんだ、俺の思い過ごしだったのかと思いつつ、


    キッチンで買い物袋から食材を取り出している彼の横顔を見ると、どこか安堵した色の様で、彼自身が『ただいま』と言うまで不安だったのかもしれないと感じた。


    「さて、今夜の夜食は、ブロッコンビーフチーズドリアだ。」


    「はぁ・・・?ブロッ、何て?」


    「うまいぞー。腹が減ってるから、調理中に涎(よだれ)が出そうだ。という訳で、朝臣、手伝え。」


    「手伝うって、俺が?」


    「はい、まず手を洗う。」


    賢さんは右手の甲を外側に払って見せ、俺を洗面台へ促した。


    賢さんはキッチンで手を洗って、エプロンを着けた。やる気満々だ。


    洗面所へ向かいながら、くすり、笑いが零れた。


    一人ではない夜、一緒に居るか居ないかという事ではなく、二人同じ気持ちで居られる夜、

    ホットココアを飲んだ後のような気持ちが、胸の奥にじんわり沁み渡る。


    上着を脱ぎ、手を洗った後キッチンへ戻ると、調理台の上に広げられていた買い物袋の中身は綺麗に片付けられていた。


    残っているのは、牛乳、缶詰、ブロッコリーにピザ用チーズ、それと失敗したという塩からいお粥。


    「さて、と・・・まずはブロッコリーを洗う。」


    賢一がブロッコリーを洗う様子を見ながら、朝臣は自分でも手伝える事を探していた。


    このキッチンに立った聖子は、俺に手伝わせようとしなかった。


    でも、一生懸命過ぎて返事をする余裕もない料理中の聖子の為に何かしたいと手伝いを買って出て、


    『じゃあ、お皿取って。食器棚の一番上の』

    と、聖子に頼まれ、食器棚の一番上の皿を取って―――


    今はそれすら出来ないな。


    立つ事が出来ないから、届かない。


    俺に出来る仕事は限られている。


    賢さんはそんな俺でも甘やかさない。


    「朝臣、これ切って。」


    洗ったブロッコリーとキッチンばさみを入れた金属製のボウルをポンと膝の上に載せられた。


    「切るって、このはさみで?」


    「そう。あんまり大きくするなよ。小さすぎてもダメだからな?」


    何センチ大にと言ってくれないと分からない。


    「適当でいいの?」


    「ああ、いいよ。茹でるから、早目にな。真ん中の芯も、下の方は捨てて、上の方だけ適当に切ってくれ。」


    「うん。」


    パチン、パチンと音が響く。


    賢さんは湯を沸かしている小鍋の隣で、別の片手鍋に缶から取り出したホワイトソースを入れ、失敗した塩からいお粥を加えて木べらで混ぜながら加熱し始めた。


    賢さんの背後に近付くと、


    隣の鍋からボコボコボコと激しいあぶくの音が聞こえて、急いだ方がいいと、


    「賢さん、ブロッコリー全部切れたよ。」背中をつついて知らせた。


    「ああ、出来た?」


    受け取ったボウルの中身を沸いた鍋に滑り落とした後、再び俺を振り返った賢さんは「じゃあ次は、これ、開けてくれるか?」と台形の缶を手渡した。


    手にひやりと収まったコンビーフの缶。


    「缶切りは?」


    「要らないよ。ほら、上に鍵みたいの付いてるだろ。それで横からぐるーって開けるんだよ。」


    「え?」


    賢さんの言っている事が分からない。鍵で、ぐるーっと開けるってどういう事?


    「分からないのか?やった事ない?」


    賢さんは俺を見ずに、二つの鍋の中身を交互に捌(さば)きながら訊いた。


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    プロフィール

    碧井 漪

    Author:碧井 漪
    絵師 西洋蔦(ib)さんと共に更新中


    作品の著作権は
    sazanami&ibにあります。
    無断転載は禁止しています。



    ☆総合目次☆

    *乙女ですって 相関図*

    *近男 登場人物紹介*

    *SとS 家系図*

    *恋愛小説 官能小説 作品一覧
    +覚書 2017.2*

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    2014.10.16設置



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