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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

馮離 B面 11

Posted by 碧井 漪 on  

馮離11-2
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朝臣は、俺の作ったお粥をレンゲで掬い、口の前に持って行った。


「待った、朝臣!ストップ、食べるな!」


手のひらをパーに開いて止めたが、


「?」朝臣は口を開けたまま、レンゲを下ろさない。


「しょっぱくて、食べられた物じゃない。塩加減 間違えた・・・ごめん。」


ぱくっ。


わわっ!朝臣がお粥というよりお塩を口に入れた。


「しょっ、ぱ・・・」


朝臣は左手で口を覆い、顔を顰めた。


「はい、水だ。おっかしーな、何でこうなったんだ?あ!そうかあの時の塊・・・掬う前に掻き混ぜたのが失敗したなぁ・・・あれは無理だ。」


あの時、塊が落っこちて、指で抓んで取り除いたと思い込んでたけど、記憶が曖昧で、ひょっとするとあのまま混ぜてしまったかもしれん。


俺、駄目だなー。はぁっ、と溜め息。肩も落ちる。


「ごめんな。これ、食べなくていいから、そうだ、プリン買っておいたから、それ食べよう。卵と牛乳、それに砂糖が入ってるから、栄養はこれよりある。うん、そうしよう。」両手のひらを胸の前でパンと合わせると、椅子から立ち上がった。


「何で、プリンの原料とか知ってるんですか?」


冷蔵庫を開けて、中からプリンを二つ取り出し、テーブルに置いた。


「聖子が時々作ってただろ。俺、手伝わされてたんだよ。『お兄ちゃん、暇なら混ぜてって』一回に使う卵の量が10個、それに砂糖を220g、牛乳1.4L・・・だったかな?」


「卵1パック?牛乳1.4L?」


「そーそー、一人一パック100円とか言って、休みの朝からスーパーの特売に並ぶのにも付き合わされてさ。」


聖子の話をしたら、朝臣の表情が緩んだ。


死んでこの世から居なくなってしまっていても、まだ好きで居てくれるんだ。


聖子を思い出しても、辛くないなら良かった。


「あ、スプーン忘れた。持って来る。」


食器棚の引き出しからスプーンを二つ取って、その一つを朝臣に手渡した。


「どうした?甘いの苦手じゃなかったよな?」


「すみません・・・味が濃く感じて食べられないです、けど・・・」


「けど?」


「いえ・・・」


言い澱む朝臣を見て、俺は余計な事をしていると、ひしひし感じた。


「無理しなくていい。」


やっぱり俺は、余分なんだ。


朝臣にとって、必要なかった人間。お節介で迷惑な元恋人の兄。


朝臣が腫れものに触るかのように俺をそっと見た。


恥ずかしいよ。思い上がって、結局何も出来ないままで。


居た堪れなくなった俺は、静かに息を吐いて、そのまま黙って朝臣の前から離れた。


トイレの後、洗面所で歯を磨いた。


鏡に映る俺の顔は、何とも情けなかった。


眉は下がり、口も への字で、どう見ても、くたびれた表情にしか見えない。


小説を書こうとしない朝臣への焦りや苛立ちは消えていた。


失望したのは、自分自身にだった。


家を出て、会社を辞めて、傷付いた朝臣の世話をするつもりが大した事は出来ず、小説も書かせられない、無力さを感じてへこむだけのちっぽけな俺。


洗面所から廊下に出ると、朝臣が俺の動向を見守るように、さっきの場所に佇んでいた。


そんな目で見るなよ。義理堅いから、俺のする事を迷惑だとはっきり言えないでいる朝臣の目。


ぶつける先もないモヤモヤした胸の澱を片付けたくなった俺は、朝臣に「ちょっと出掛けて来る。」と言って、玄関に向かった。


外出用のジャケットを羽織り、シューズクローゼットの引き出しから取り出した車のキーを右手のひらに収めた。

右の靴を履いた時、「どこ、行くの?」朝臣の声がして、振り向いた。

朝臣がすぐ後ろまで追いかけて来ていた。

どこって、どこだろう。特にない。


「ちょっとその辺、ぶらっと・・・」


『逃げる』そんな言葉が頭に浮かんだ。そうだ、俺は朝臣から逃げるんだ。


そのまっすぐな瞳から、逃げる。

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碧井 漪

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