近男 -Kindan- 48 - sazanamiの物語
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    近男 -Kindan- 48

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    3月16日月曜日、流星は仕事へ行くと言っていたのに、出勤は私より遅い時刻のようで、私が出社する時刻になっても、朝食の後片付けをしていた。


    「勤務先は、どの辺り?」と小さく訊いた私の声は、お皿を洗う水の音に掻き消されたのが理由か、流星からの返事は貰えなかった。


    「いってきます。」


    「いってらっしゃい。」


    何も変わらないように見えて、大きく変わってしまった私と流星の内情。


    喧嘩より遠い位置に離れてしまった。そういえば、喧嘩らしい喧嘩はした事はない。


    彼への何とも言い表せない気持ちを、いつまでもずるずる引き摺るのが嫌で、いっそ新しい恋をすればいいなんて結論も出してみた。


    新しい恋──でも、どうやって?


    学生時代のように、簡単に人を好きになれたらいいけれど、それは無理だと、始める前に諦めそうになっている。


    見た目が好み、性格がやさしい、趣味がいい、話題が面白い・・・


    今の私は、うわべだけで人を判断出来なくなってしまっている。


    好きになれたとしても、一緒に暮らしたいと思うまでに何年かかるか解らない。


    性格や好みをある程度知っている昔の彼が今、仮に私と暮らしたいと現れても、私は彼と一緒に暮らしたいとは考えられない。


    流星を忘れさせてくれる男が現れたとしても、私はその男と一緒に暮らせるの?暮らしたいの?


    ──本当に流星を忘れたいの?それでいいの?


    ──忘れなくちゃいけない。いずれ流星が結婚相手を見つけたら、私達二人の暮らしは終わるの。そうよ。忘れたくない。忘れられない。そんな言葉を吐いたってどうにもならない。


    男にフラれて死にたくなって、死ぬって齢でもない。


    甘えるな。独りで生きると決めた人生、こうなるのは正しい事なのよ。良かったじゃない、両親にも弟夫婦にも睨まれる報告をする事なくて・・・


    私は一生独り、と独身を貫くのは、誰とでもいいからという結婚をするよりも、固い信念が無ければ実現不可能な事。


    心を閉じよう。


    恋なんて感情は、私の心の中に、初めから持っていなかったもの。私は恋が出来ない女。結婚も出来ない女。


    独りでもしっかり歩ける女。うん。


    会社の裏手で深呼吸した輝美は、よし!と気合を入れて顔を上げると、カッカッと力強く踵を鳴らして会社内へ入った。






    週明け月曜の朝礼は、いつも静かな感じがする。


    土日の連休で、疲れているのか、社員達は静かというより気怠そうで、視線も下を向きがちだ。


    朝礼後、数名の女子社員に「塩谷さん、大丈夫ですか?」と訊かれる。


    彼女達の目的は何かしら?と考えながら、「ええ、もうすっかり。皆さんも風邪には気を付けて下さいね。」言った後、少し後悔した。


    「風邪ですか・・・怖いですね。私達も気を付けます。」


    "お齢を召して体力が落ちているから、ただの風邪でもそんなに休むんですね"という風に思われているのでは?と感じてしまう。


    ただの"風邪"と言わず、"インフルエンザ"と言われる方が厄介だと思われそう、と考えて、現に"風邪"だったようだから、そう言ったけれど・・・齢、確かにそう。


    体力がどんどん衰えて来る女。気力も、今は食欲もない。睡眠欲も昔ほどじゃなくなった。それから性欲も衰える、のかしら?それはその方がいいと思う。ただ、快楽に狂えるあの瞬間を味わえなくなるのは、辛い気もする。


    どちらにしても、これからは流星とは出来なくなったのだから、セックス自体を諦めるか、私の相手をしてくれる人を探すしかない。


    流星以外の相手―――それを考えられたのなら、この二年の間にとっくにそうしていた、でもそんな相手はいない。体の相性が良いかどうかは、見た目だけで判断出来ないし。


    「塩谷さん、よろしいですか?」村井部長代理。


    「はい。」仕事しよう。


    「先週の会議報告と今週のスケジュール確認を応接室でお願いします。」とにかく、恋より仕事よ。


    「わかりました。」忘れよう、流星の事は。


    輝美が休んでいた間の業務報告を、村井と加集から応接室で受けた後、先に村井が退室して、残った輝美が、応接室のブラインドの角度を調整していると、

    「塩谷さん、ご体調はいかがですか?」加集が気遣って声を掛けた。


    「あ、ええ・・・もうすっかり。先週は申し訳ありませんでした。」


    「いえ、それより・・・塩谷さん、甥御さんと暮らしているんですか?てっきり、お一人暮らしかと思っていたので・・・あ、他の人には言ってませんから。」


    甥御さんって、流星の事・・・ああ、忘れようと思ってたのに、思い出してしまった。


    「あっ、はい・・・弟の子どもなんです。甥が電話で何か失礼な事を申し上げましたか?」


    流星の電話の相手が加集さんで本当に良かった。彼は口が堅いから。


    「塩谷さんを下のお名前で呼んで、命懸けで護りますから、と言っていたので、甥御さんではないんじゃないかと一瞬心配になりましたけど、でも御無事で良かったです。」


    恥ずかしい、流星ったら、もうっ!


    「ごめんなさい。甥が変な事を・・・あの子、大袈裟なんです。心配性と言ったらいいのかしら。どうか気にしないで下さい。」


    「いえ・・・ただ、気になる点が・・・」


    「気になる点・・・何かしら?」


    輝美はドキリとした。輝美の弟の子と言ったが、それにしては齢が近過ぎると、本当は甥ではなく、嘘を吐いている、と疑われている――――?


    「いえ、余計でした。」「教えて下さい。加集さんがお気付きになられた事を。」


    「甥御さんは心配症だ、と仰いましたけれど、とても塩谷さんの事を大切に思われている、とかですか?」


    「どうして、そのように思われましたか?」大切って、それは確かに大切に・・・でも先週までなんです、というのは加集さんに関係ない話。


    「そうでなければ、命懸けって危ない意味にもとれますから。今日、塩谷さん元気ないみたいですし、もし何かトラブルとか悩みとかあったら、一人で抱え込まないで相談して下さいね。」


    加集さんは、伯母と甥の家庭内トラブルを心配してくれているのね・・・特に男と女だから、暴力的なトラブルだといけないと危惧したのかもしれない。


    確かに、何年も病気でなんて休んでなかったのに、先週は半分以上 病欠してしまったから、心配になるのは当然の事ね。


    相談に乗って下さるという加集さんのお申し出は本当にありがたいけれど・・・今のトラブルは少し違うから相談出来ない――――暴力的なものではなくて、痴情のもつれというか、何というか・・・人に明かせる話ではない。


    「いえ・・・甥は真面目ないい子です。危ない事は本当にありません。伯母想い過ぎるだけで・・・」


    その言い訳も、変に思われているかしら・・・伯母想いの甥なんて・・・


    どきどきどき・・・・・・


    「そうですか。それなら・・・安心しました。」加集はホッと息を吐き、微笑んだ。


    “伯母想い”だなんて言ってしまった事、よく考えると恥ずかしい。


    だけど、加集さんに、別の意味での”想い”なんですけど、とは絶対に明かせそうにない。


    もしも加集さんが、私が12歳も年下の甥を愛してしまったと知ったら、気持ち悪い女だと思うでしょうね、きっと・・・


    やっぱりどうしても無理ね。流星との結婚を考えるのは。


    私の問題だけじゃない。


    流星だって12歳も年上の女を妻にした、それも伯母だった女とって、友人に説明出来る?――――流星ならするかもしれないけれど、友達付き合いがなくなってしまうかもしれないわ。若い友達の前で流星に紹介される私の姿を想像すると、何だかみっともなくて恥ずかしいし・・・


    「どうしたんですか?塩谷さん。」


    「いいえ。少し考え事を・・・ごめんなさい。」


    「よろしければ塩谷さん。お昼、お先にどうぞ。」


    「もうお昼・・・そうですね。では、お先に。」私と加集さんと部長代理は交替で昼食を取る。時間はその時によって、毎回違う。


    何を食べよう・・・食べたい物、ないわ。


    輝美は、入社当時は同期や先輩社員に連れられ、駅の方まで出て、外で昼食を済ませていた事もあったが、ここ数年は社員食堂で済ませていた。


    ふーっ、溜め息は湧いて出るのに、食欲は湧かない。


    家では、流星が輝美の分も作っていたので、食べずに残すという事が出来ず、何とか食事を取っていた輝美だったが―――


    はぁ・・・胃が重苦しい。食べたくないわ。


    独りで暮らして居たら、間違いなく、食事を作りも食べもしなかったでしょうね。


    お茶かスープで済ませていたかもしれない。


    社員食堂の入口で輝美は、足を止めた。


    『本日の日替わりメニュー アジフライ定食』


    値段の割にボリュームのある日替わり定食を食べる気にどうしてもなれず、今はお茶だけでいいと考える輝美だったが、他の社員達の手前、食堂内でそれはよくないと考えた。


    一度外に出て、コンビニでヨーグルトか何か買って戻る・・・という気にもなれない。


    立ち止まって考える事は、流星の事ばかり。今日、仕事だって言ってたけど、一体どこで働いているのかしら?


    企業?飲食店?それとも辞めた会社と同じ物流系の仕事かしら・・・?


    輝美は一階の食堂から、出て来て十分も経っていない二階の広報室へと戻って行った。


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    プロフィール

    碧井 漪

    Author:碧井 漪
    絵師 西洋蔦(ib)さんと共に更新中


    作品の著作権は
    sazanami&ibにあります。
    無断転載は禁止しています。



    ☆総合目次☆

    *乙女ですって 相関図*

    *近男 登場人物紹介*

    *SとS 家系図*

    *恋愛小説 官能小説 作品一覧
    +覚書 2017.2*

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    2014.10.16設置



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