積み重なって解けるとき 19 - sazanamiの物語
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    積み重なって解けるとき 19

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      二月中旬の夜道の寒さは、素肌に突き刺さるように厳しく、溪の予想以上のものだった。


      しかし、その寒気の刺激は走る内にだんだん感じなくなり、熱った体と苦しさを増す息の下で、溪は思い出したくなかった昔の記憶を蘇らせていた。





      21歳になる少し前の20歳の私は、病気になって入院したその時に人生で一番だと思う痛みを経験したと思い込んでいた。


      人が人を愛したらどうなるかを知らない同士で、ただ肉体を結んだだけの関係という、脆い絆に深手を負わされ、何も知らなかった私が間違っていたのだと打ちのめされた絶望の日々。


      身体だけではなく、心もボロボロになったこのとき、先に待ち構えている未来では、これ以上の痛みも悲しみも味わわないでしょうと考えた事も、今となってはこれも間違いだったと知った。


      今をまだ知らないそのときは、どん底の気分はもうやって来ない、これ以上の悪い事はもうない、そう思って頑張った。


      それから時が過ぎ、私の心に愛を芽生えさせてくれる人が現れた。


      加集さん、彼を密やかに想うだけで、毎日しあわせな気分になれた。


      彼が明るく微笑む度に、私も自然に微笑んでいた。


      彼に近付けて、それから好きになって貰えて、信じられない程光り輝く、奇跡のようなしあわせな毎日が私の元に訪れた。


      けれども、しあわせを感じれば感じるのと同時に、私の背後にある絶望がいつ、目前の足元に現れるか怯え始めている事に気が付いた。


      この身の中にある、穢れた自分を彼に知られて嫌われる事を考えたら、絶対に見せたくないと感じ、私はそれだけは耐えられないと、自らしあわせを手離す方を選んでしまった。


      彼から与えられたしあわせの分、毎日苦しくて、会いたさとどうしようもない恋しさを忘れようと必死になった。


      しあわせを自ら手離さなくてはならない辛さに比べたら、あの時負った傷の痛みや絶望は何でもない事だった。


      でもそれから、菜津子さんに加集さんも苦しんでいると聞き、私は逃げていた事を後悔した。


      自分だけが苦しいのだと勘違いしていた。


      私を本当に好きになってくれた彼に、私の過去のすべてを話して嫌われてしまおう、そして私自身も戻れない場所へ弾き飛ばされてしまおう・・・覚悟を決めて、さっき全てを告白した。


      これでもうおしまい。


      だけど、彼の答えは「別の日に話そう」だった。


      話してもどうにもならない事は、分かっている。彼も気付いたと思う。


      過去、ボロボロになる前の私がそうだった。


      好きな相手の為なら、と、望ましくない事でも目を瞑って無理をした。


      それが愛だと勘違いして・・・実際には愛し合ってはいない状態だったのに、気付いていなかった。


      一方向だけの愛は脆く、架けた橋が壊れた途端、二人共に濁流に呑み込まれて離れ離れになった。


      私が無理をしている事に気付いても知らない振りをしたまま、私を簡単に切り捨てた男とは違う加集さんは、いずれ私の事を面倒に感じられるようになっても、そのとき私を切り捨てられずに、苦しめてしまうかもしれない。


      それは嫌だった。


      人の心は変わるもの。


      いくら私が愛しても愛されるとは限らないし、愛されたとしても、いつか消えてしまう。


      その日まで一日でも長く壊さないようにと、怖々包んで大切にした愛を抱いたまま躓いて転び、粉々に砕け散ってしまう日を迎えてしまうかもしれない。


      別れたくない、そう思っても、愛を失くした人とは一緒にいられない事を知っている。


      愛していたい、彼のしあわせを願いたい――――でも、彼に愛される資格のない私では、彼を愛する事、そして彼のしあわせを願う事、両方を得る事が出来ない。


      それならば、私は彼のしあわせを望みたい。


      加集さんの笑う顔が大好きだから。


      元気を貰える、生きる糧になる。


      もうこれ以上、加集さんを悩ませたくない。


      これでよかったの。彼と私の運命はここまでで終わり。


      彼の前から消える私を、彼はその内に忘れることでしょう。


      走り続けるのは息が苦しいときもあるけれど、ここに留まって、大好きなあなたを傷付ける日に怯えて暮らすよりいいことです。


      私はあなたと一緒に居られないけれど、ずっと愛しています。


      彼が私を好きと言ってくれたことは、現実ではない夢の中の事として、大切にしまっておきます。


      もう二度と逢うことが叶わない人に、私自身でしてしまった。


      私が好きになって、そして私を好きになってくれた人。


      こんな奇跡は人生で二度と起こらない、これも思い込みかもしれない。


      新たな恋に出逢う日がおとずれるかもしれない。


      でも、その日は待ち遠しくない。


      このまま、まだ愛していたい。


      愛するのを最後にしたい人。


      この身が果てる日まで、この恋を抱き締めたまま。


      溪の上気した頬を、幾筋もの涙が伝い落ちて行った。



      哲も吉夜も先に行ってしまい、

      暗闇の続く歩道の上を独りで走っていた溪は、

      これから会社を辞め、遠くの街で独りで暮らす事を考えて、慣れる練習をしようと考えた。


      もう何も持っていない。


      抜け殻になった恋を一つ・・・いいえ、違う。


      あなたと完全にお別れして、

      空っぽになると思っていた私の中に残されたのは、

      まだあなたに告白する前の、私の想いを何も知らない頃のあなたへの恋心。


      全部この手で壊してしまった現在の世界から、私の心だけ片想いの時の、五年前のあなたを好きになった世界へ戻していた。


      そこに戻れなければ、どこへも向かえない私の心と一緒に、恋も壊れてしまいそうだった。


      あの時の恋心だけは、壊さない――――それだけは持って行くの。


      溪は過去の加集への片想いしていた頃の記憶に縋る事で、乱れ散りそうになる心を何とか落ち着かせていた。


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      碧井 漪

      Author:碧井 漪
      絵師 西洋蔦(ib)さんと共に更新中


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      ☆総合目次☆

      *乙女ですって 相関図*

      *近男 登場人物紹介*

      *SとS 家系図*

      *恋愛小説 官能小説 作品一覧
      +覚書 2017.2*

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      2014.10.16設置



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