それから、ずっと、愛してる 73 ☆
甘い夢を見ながら目醒めた翌朝、
僕達を待ち受けていたのは、
テレビニュースで放送されている、
一昨日のパーティー内で行われた君と僕の婚約発表映像だった。
甘い夢を見ながら目醒めた翌朝、
僕達を待ち受けていたのは、
テレビニュースで放送されている、
一昨日のパーティー内で行われた君と僕の婚約発表映像だった。
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2015年12月23日。
二か月ぶりに自宅マンションの部屋へ入った。
窓を開けて、外の空気と入れ替える。
ここを出た日の朝は、君に気付かれないように、希望もない道へ独り進む事しか考えていなかった。
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今、僕の知る世界の中で一番愛しいと思う君にされたお願い事、叶えられる事ならば、叶えてあげたい。
でも、
しかし、
それは・・・
叶えられないと思う部類に分類される。
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「あっ・・・そうですよね。私ったら、気が付かなくて、ごめんなさい。少し待っていて貰えますか?」
悲しい気持ちを、零れ落としてしまいそうな涙を堪えながら、陽芽野は大急ぎで自分のバッグに荷物を纏め、
「私が佐々木さんのところへ戻ります。・・・ごめん、なさい・・・っ・・・」
瑞樹にお辞儀しながら言う陽芽野の声は涙声だった。
ちゅっ、ちゅぷっ、ちゅっ・・・
僕は、君の細くて長い指を口に咥え、舐めしゃぶった。
「あ・・・くす、ぐっ、たいです・・・」と君は恥ずかしそうに、
だけど嫌がっているようには見えなかったので、
僕は、君の手首の内側に唇を付け、強く吸った。
結婚式?
僕の替えられた上着は燕尾服になっていた。
いや、しかし婚約を発表した場ですぐにこの光景はおかしい。
夢か?幻、夕方の白昼夢かもしれない。
寝不足の僕は、パーティー前に裏にあったパイプ椅子に座った途端、
つい居眠りをしてしまったのだ。
あなたが入って来る。
私のカラダの中に。
そしてココロの中をいっぱいにして、
ぎゅうっときつく縛られている感覚が心地良い。
どこへ行ってしまうのか不安だった私を、
あなたが抱きしめて、そしてずっと離さないで居てくれる。
信じられないような、夢の中の出来事のような。
だけど現実。
甘いのに現実。
この世界にこんな素晴らしい出来事があったなんてと言ってしまったら、
「大袈裟だ」と大和さんに言われそうだけど。
自惚れていいかな、君が求めているのは僕だけだと。
君の望みを叶えるには、
ココにボクのモノをツナゲル・・・
本当にいいのか、決めるのは僕?それとも君?
それとも・・・運命?
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色の白い君の肌に唇をつけて、強く吸い付く。
小さく薄く、赤くなる。
可愛くて大切で守りたい君なのに、
どうしようもなく、自分の好きにしてしまいたくなる感情が湧き起こって来るのはどうしてなのだろう。
全身の肌を剥き出しにして、あなたの前で見せる。
でも怖くない。
あなたは私の体を傷つけるような事を、永遠にしないと解るから。
僕は、迎えに来た二人に現地の病院へ連れて行かれた。
右腕は、レントゲンを撮った結果、骨には異常がなく、
打撲という事で湿布を貼られ、包帯を巻かれた。
それから点滴を受け、薬を処方されると、帰っていいと言われた。
熱も下がり、昨夜より随分楽になった。
耳と頬の傷も、薬のおかげか殆ど痛まなくなっていて、
今は、大きな絆創膏のような、肌色の保護パッドを貼っている。
アパートで君と二人で荷物を纏めていると、帰りの飛行機のチケットが取れたと、
大和さんが戻って来た。
「陽芽野、おいで。」
今、何て・・・?
「ここに、来て。」体を起こした瑞樹は、左腕を広げた。
「松田は、行方不明らしい。」朝一でウチに駆けつけたひめちゃんに、俺は隠さず打ち明けた。
昨夜、吉岡常務から会長宛に入った報告を、電話したたんぽぽが聞いた。
俺も何度も松田や向こうの拠点オフィスに電話しても出ないから、
信じたくはないが、連絡が取れないという事は、
爆発に巻き込まれた可能性があると思っている。
何とかオフィスに着いた僕は、現地採用された同僚のスタッフに心配されながらタオルを渡された。
僕は、血で赤く染まったシャツの襟を洗面台の鏡で見て、着替えないと・・・
と考えながら、右耳と頬を濡らしたタオルで拭うと、そのタオルも赤く染まって行く。
耳の端と頬に刃物で切った時のような傷を確認した。
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僕を愛してくれた君。
その愛の形は見えないけれど、
僕は君から受け取った。
君から貰った愛をずっと大事にする。
君と離れていても、君を愛している。
君に忘れられても、僕は忘れられない。
僕は悪い男だ。
真っ白な雪のように穢れなき君には相応しくない人間。
君の傍に居てはいけない。
いつまでも君とこの手を繋いで眠りたいと願う。
いつも思うのは、
手を繋いでいるというよりも、
心と心を繋いでいるような気分になっているという事。
ゆうべから、頭の中で僕は何度も君を突き放す。
もう愛していないフリをしよう。
しかしそれは僕が今、君に突き放されたいからだ。
そうでもしなければ、
何も言えない僕は君を抱きしめて離したくなくなってしまうから、
君の方から僕を突き放して欲しいと願っている。
瑞樹さんは怒っているの?
私の事を嫌いになってしまった?
『君の顔を見ていたくない』
過去に瑞樹さんに言われた事を思い出して苦しくなる。
僕が今、一番失いたくないのは・・・
それを口にする事すら許されない現実に打ちのめされて、
何もしたくないのではない、何もしてはいけない。
君を大切に想うのならば。
心に激しく渦巻いて、止めるのに苦労すると予想出来る様々な感情を、
君に知られてはならない。
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「たんぽぽさん、ヒメノさんとおっしゃる方を私も捜しましょうか?」
瑞樹が去ったエレベーターホール前で恵理子が言った。
「はい、お願いします。
ええと、大学生の女の子なのですけれど、
お洋服が今日は、秘書さん風の黒いスーツで、黒ふちの眼鏡をかけています。」
「その方は松田さんと吉岡さんのお知り合いなのですか?
それでしたら吉岡さんにもお願いして、ご一緒に捜していただくのはいかがでしょうか?」
「だめ!だめです!吉岡は悪い人なんです。」
「たんぽぽさん。」人目を気にした恵理子は、たんぽぽに向かって人差し指を唇の前に立てた。
陽芽野は12Fに到着したエレベーターを降りた。
そして通路へ入ると、立ち並ぶ同じ様なドアプレートに書かれた文字を頼りに進む。
『企画部海外事業課』
それは陽芽野の想像よりも大きな部屋だった。
「ひめちゃん、どこに行きますか?」
「私は・・・すみません、わからなくて。こんなに大きな会社は初めてで、私、やっぱり来るべきではなかったかもしれません」
正面エントランスホールから続く長いエスカレーターに乗って、話す内、三階のエレベーターホール前に着いた。
「そうですね。父も広過ぎて最上階まで歩くのが大変だから、この辺に会長室を作れば良かったといつも言っています」
くすっとたんぽぽさんが笑った。
君を守る為なら僕はどうなってもいい、
それは間違いだった。
僕がどうにかなったら、
君が悲しむ。
それは君を守れた事にならないと気が付いた日。